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COLUMN

自分で書いて、法務局に預ける 遺言書のつくり方 全20回

(本記事は2026年8月時点の法令および法務省の公表資料にもとづく一般的な情報提供です。個別のご判断は司法書士・弁護士等の専門家にご確認ください)

目次
第1集 無効にしないための、自筆遺言書の基本(全4回)
第2集 法務局の保管制度を使う準備(全4回)
第3集 作ったあとの管理と見直し(全4回)
第4集 残された家族のために(全4回)
第5集 今日から始めるロードマップ(全4回)
第1集 無効にしないための、自筆遺言書の基本(全4回)
第1回 まず守るべき四つのルール
結論

遺言書を自分で書くなら、全文を自筆で書くこと、作成年月日を入れること、氏名を書くこと、押印すること。この四つを完璧に満たしてください。ひとつでも欠ければ、その遺言書は効力を持ちません。

なぜそう言えるのか

どれほど強い想いが込められていても、形式が欠けた瞬間に、法律上はただの紙になります。パソコンで印字した本文は認められません。日付も同じで、「令和8年8月吉日」のように日が特定できない書き方は無効です。実際に、この「吉日」ひとつで遺言が無効とされた最高裁の判断があります。

しつこいようですが、ここは想いの強さで補える部分ではありません。形式は形式として、機械的に守る。そう割り切ったほうがうまくいきます。

具体的にできること

本文と日付と氏名は、必ず自分の手で書きます。財産目録だけは例外で、これは次回に詳しくお話しします。

日付は「2026年8月18日」のように、年月日をはっきり書いてください。氏名は戸籍どおりのフルネームで。押印は実印でも認印でも構いませんが、実印を使い印鑑証明書を添えておけば、後から本人が書いたかどうかを争われたときに有利に働きます。

なお、法務局の保管制度を使う場合は、これに加えて用紙の様式ルールがあります。便箋ではまず通りません。第2集で詳しくお伝えしますので、書き始める前に必ず目を通してください。

知っておきたい最新の動き

2026年6月17日、遺言制度に関する改正民法が成立しました。パソコンやスマートフォンで作成した遺言を法務局が保管する「保管証書遺言」が新設され、あわせて既存の遺言についても押印の要件が廃止されます。ただし施行は公布から3年以内とされており、現時点ではまだ従来どおりの取り扱いです。今日書く遺言書には、押印が必要だとお考えください。

今日からできること

いきなり本番を書く必要はありません。まずは「2026年8月18日 山田太郎 (印)」という署名欄の形をノートに書き写してみてください。この一行に、無効か有効かの分かれ目が詰まっています。

第2回 財産目録だけは、手書きでなくていい
結論

不動産や預貯金の一覧である財産目録に限っては、パソコンで作成した書類や、通帳のコピーを添付する形で準備できます。

なぜそう言えるのか

不動産の所在地を登記簿どおりに書き写す作業は、想像以上に骨が折れます。地番、家屋番号、床面積。ひとつ数字を間違えれば、どの不動産を指しているのか特定できなくなり、相続登記の場面で止まります。

そこで2019年の法改正により、財産目録の部分だけは自筆でなくてよいことになりました。パソコンで作る、あるいは登記事項証明書や通帳のコピーをそのまま添付する。正確さという意味では、こちらのほうがずっと安全です。

具体的にできること

不動産は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載をそのまま写してください。ここを住居表示(郵便物の宛先に使う住所)で書いてしまう方が非常に多いのですが、登記上の地番とは別物です。私どもが遺言書の内容を拝見していて、いちばん多く見つかる不備がここです。法務局は形式は見ますが、その不動産が実在するかまでは確認しません。

金融資産は、銀行名、支店名、口座の種類、口座番号まで。

そして忘れてはならないのが、自筆でない目録の全ページに、署名と押印をすることです。両面に記載がある場合は両面ともです。ここが抜けると、その目録は無効になります。

保管制度を使う場合は、目録にも本文と同じ用紙・余白のルールが適用されます。コピーの印刷位置がずれて余白にかかっていると、預かってもらえません。コピーの濃さにも注意してください。法務局はスキャナで読み取るため、濃すぎても薄すぎても手続きが止まります。

今日からできること

通帳と、不動産の権利証や登記事項証明書を一か所に集めるところから始めてください。集めてみると、自分でも忘れていた口座が出てくるものです。

第3回 誰に何を、どこまで具体的に書くか
結論

遺言書は、誰に、何を、どれだけ渡すのかを、読んだ人が一通りに解釈できる書き方にしてください。

なぜそう言えるのか

「家財はみんなで分け合うこと」「引き継いだ者が適切に処理すること」。こうした表現は、書いた本人の頭の中では明確でも、残された家族には何も伝わりません。そして解釈が分かれた瞬間に、そこが争いの入り口になります。

法務局に預けても、この問題は解決しません。職員が確認するのは全文の自書、日付、氏名、押印といった外形的な事項だけで、内容の意味までは見ないからです。法務省も「本制度は遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しています。曖昧な文言は、曖昧なまま保管されます。

具体的にできること

財産と相手を必ずセットで特定してください。「長男の山田一郎に、○○銀行○○支店の普通預金口座(口座番号1234567)を相続させる」「妻の山田花子に、別紙目録記載の不動産を相続させる」というように書きます。

次順位の指定も考えておいてください。受け取る予定の人が自分より先に亡くなった場合にどうするか、という予備的な指定です。これがないと、その部分だけ遺言が効かなくなり、結局その財産について遺産分割協議が必要になります。

書き漏らしへの備えとして、「その他一切の財産は○○に相続させる」という一文を入れておくのも有効です。後から見つかった口座のために協議をやり直す手間がなくなります。

そして遺留分です。配偶者や子どもには、最低限保障された取り分があります。これを大きく下回る配分をすると、遺言そのものは有効でも、後から遺留分侵害額請求という形で金銭の請求を受ける可能性があります。偏った配分を考えているなら、事前に専門家に一度見てもらってください。

今日からできること

財産をひとつずつ書き出して、「これは誰の今後の暮らしに一番役立つか」をメモしてみてください。金額の話ではなく、暮らしの話として考えると、答えが出やすくなります。

第4回 付言事項という、もうひとつの遺言
結論

法律上の指示を書いた後に、なぜその分け方にしたのかという理由と、感謝の言葉を書き添えてください。ここが、家族が納得できるかどうかを分けます。

なぜそう言えるのか

特定の家族に多く残す配分をしたとき、理由がわからなければ、他の家族には「なぜ」だけが残ります。その「なぜ」は、たいてい人に向かいます。あの人が父に何か吹き込んだのではないか、と。

「妻の老後の暮らしを守ってほしいから」「長年介護を担ってくれた感謝として」。書き手の言葉で理由が語られていれば、受け止め方は変わります。付言事項に法的な強制力はありませんが、争いを防ぐ力という意味では、本文と同じくらい重要です。

具体的にできること

本文のあとに「付言事項」として、感謝と、これからも家族が仲良く過ごしてほしいという願いを添えます。

差をつけた配分がある場合は、その理由を穏やかに説明してください。ここで誰かを責める書き方をすると、逆効果になります。読むのは、まさにその家族です。

ただし、付言事項をどれだけ丁寧に書いても、遺留分そのものがなくなるわけではありません。あくまで、請求を思いとどまってもらうための働きかけだとお考えください。

今日からできること

家族へ一番伝えたい感謝の言葉を、一言だけノートに書き留めてみてください。長い文章である必要はありません。一行のほうが、かえって届きます。

第2集 法務局の保管制度を使う準備(全4回)
第1回 自宅保管の不安を、公的な仕組みで解消する
結論

自分で書いた遺言書は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使って預けるのが、費用と安全のバランスとして最も現実的です。

なぜそう言えるのか

自宅の引き出しや金庫に置いておくと、三つのリスクがついて回ります。紛失、遺品整理での見落とし、そして相続人による破棄や改ざんです。私どもが立ち会った現場でも、「あるはずの遺言書が見つからない」という話は珍しくありません。

法務局に預ければ、原本とスキャンした画像データの両方が管理されます。原本は遺言者の死亡後50年、画像データは150年。紛失も改ざんも起こりません。手数料は1件3,900円。公正証書遺言と比べれば、費用は格段に抑えられます。

ただし、ここは正確にお伝えしておきます。この制度は保管と形式確認の制度であって、内容の有効性を保証するものではありません。法務省も明記しているとおり、職員は遺言の内容について相談に応じることもできません。安全に預かってはくれるが、中身の良し悪しは見てくれない。この線引きを理解しておくことが大切です。

具体的にできること

手書きした遺言書をそのまま持ち込めます。公証役場での作成に比べ、費用も準備も軽く済みます。

封はしないでください。窓口で形式の確認を受けるため、封をしたままでは手続きができません。

そして、次回お伝えする様式ルールを必ず確認してから清書してください。ここを飛ばすと、当日その場で書き直しになります。

今日からできること

遺言書を書き上げたら、封をせずに書類ケースへ。封をしないことが、この制度では正解です。

第2回 用紙のルールを知らないと、その場で突き返されます
結論

保管制度には、民法の要件とは別に、省令で定められた用紙の様式ルールがあります。ここを外すと、内容がどれほど完璧でも預かってもらえません。

なぜそう言えるのか

法務局は遺言書をスキャナで読み取り、画像データとして長期保存します。そのため、用紙のサイズと余白が厳密に決められているのです。

具体的には、A4サイズであること。両面に書かないこと。余白を上5ミリ、下10ミリ、左20ミリ、右5ミリ以上とること。本文と財産目録の各ページに通し番号を振ること。複数ページあってもホチキスで綴じないこと。文字が読みづらくなるような模様や色のない紙を使うこと。一般的な罫線であれば問題ありません。

そして厳しいのが、余白に1文字でもはみ出していると、書き直さない限り受け付けてもらえないという点です。市販の便箋や遺言書キットには、この余白要件を満たさないものが少なくありません。せっかく丁寧に清書したものが無駄になります。

具体的にできること

法務省のホームページに、様式に対応した用紙のひな形がPDFで公開されています。これを印刷して使うのが、いちばん確実で早い方法です。

財産目録も同じルールが適用されます。パソコンで作った目録や通帳のコピーも、印刷位置を調整して余白の内側に収めてください。全ページに必要な署名、押印、ページ番号も、余白の内側に書きます。

筆記具は、ボールペンや万年筆など消えないものを。摩擦で消えるボールペンは使わないでください。

書き間違えたときの訂正にも決まりがあります。訂正した箇所に押印し、どこをどう訂正したかを付記して署名する必要があります。自信がなければ、書き直したほうが早くて確実です。

今日からできること

清書に取りかかる前に、法務省の「遺言書の様式等についての注意事項」に目を通し、用紙のひな形を印刷しておきましょう。ここに5分かけるかどうかで、後の手間がまるで違います。

第3回 当日の持ち物は、四点では足りません
結論

法務局へ出向く日には、遺言書の原本、保管申請書、住民票の写し、顔写真付きの本人確認書類、そして手数料。この五つを揃えてください。

なぜそう言えるのか

法務局の手続きは厳格です。ひとつでも欠けると、その日は完了しません。予約を取り直して出直すことになります。

とくに見落とされやすいのが住民票です。本籍と戸籍の筆頭者の記載があるもので、作成後3か月以内、かつマイナンバーと住民票コードの記載がないもの、という条件がつきます。区役所の窓口で「本籍入りで、マイナンバーの記載なしで」と伝えないと、条件に合わないものが出てきます。

具体的にできること

本人確認書類は、顔写真付きの公的な証明書を1点。運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなどです。有効期限が切れていないか、事前に確認しておいてください。

保管申請書は法務省のホームページからダウンロードできます。当日窓口でも記入できますが、書かないまま行くと予約時間内に終わらず、再度来庁ということになりかねません。必ず事前に書いていってください。遺言執行者を指定した場合は、申請書にその方の情報を記載する欄があります。

手数料は3,900円。ここは注意が必要で、収入印紙による納付です。現金では納められません。印紙は手続きをする法務局で購入できますので、現金を持参して当日買うのが確実です。

今日からできること

財布を開いて、本人確認書類の有効期限を確認してください。そのうえで、区役所で住民票を取る日を決めてしまいましょう。3か月の期限があるので、申請日から逆算して取るのがコツです。

第4回 予約と、受け取る保管証
結論

保管の申請は、必ずご本人が予約を取って出向いてください。代理人による申請も、郵送も、飛び込みでの受付もできません。

なぜそう言えるのか

本人の自由な意思で作られた遺言書かどうかを確かめることが、この制度の根幹だからです。だからこそ代理は認められません。

裏を返せば、判断能力がしっかりしているうちにしか使えない制度だということです。「そのうち」と先送りしているうちに、体調を崩して窓口まで行けなくなる。この形で間に合わなかった方を、私どもも見てきました。

具体的にできること

管轄を選びます。ご自身の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地。このいずれかを管轄する法務局のうち、通いやすいところで構いません。なお、出張所では保管業務を扱っていない場合があります。

予約は、法務局手続案内予約サービスからインターネットで、または電話で。混み合う時期もあるので、早めに押さえてください。

当日は、封をしていない原本を提出し、外形的な確認を受けます。問題がなければデータが登録され、保管証が交付されます。この保管証には保管番号が記載されており、後の変更手続きや、ご家族が探すときの手がかりになります。再発行はされません。

今日からできること

最寄りの管轄法務局がどこかを調べ、あわせて保管証をしまう場所を先に決めておきましょう。決めてから受け取ると、しまい忘れが防げます。

第3集 作ったあとの管理と見直し(全4回)
第1回 ここを誤解すると、遺言書が二通残ります
結論

法務局に預けた後でも、書き直しはいつでもできます。ただし「保管の申請の撤回」と「遺言の撤回」は別物です。ここを取り違えると、大変なことになります。

なぜそう言えるのか

法務局でできるのは、保管の申請を撤回して、預けた原本を返してもらうことです。これは保管をやめる手続きであって、遺言そのものを無効にする手続きではありません。返ってきた遺言書は、法的には有効なまま手元に残ります。

「法務局で撤回したから、前の遺言はもう効力がない」。そう思い込んだまま新しい遺言書を作ると、有効な遺言書が二通存在することになります。日付の新しいものが優先されるとはいえ、内容が食い違う部分の解釈をめぐって、家族は必ず揉めます。避けたかったことが、そのまま起きてしまう。

具体的にできること

内容を変えたいときは、新しい遺言書を作ってください。後から作ったもので前のものを撤回する、と明記しておけば確実です。日付が新しいほうが優先されます。

前の遺言書を確実に失効させたいなら、保管の申請を撤回して原本を返してもらい、ご自身の手で破棄します。法務局が代わりに廃棄してくれる仕組みはありません。

新しい遺言書をあらためて保管してもらう場合は、また3,900円かかります。なお、撤回そのものや、住所・氏名の変更の届出には手数料はかかりません。撤回も本人が出向く必要があります。

今日からできること

過去に書いた遺言書やメモが手元にあるなら、今の気持ちや家族の状況と食い違っていないかを確かめてください。食い違いに気づいたときが、書き直しどきです。

第2回 預けた後でも、自分で中身を確かめられます
結論

保管した後も、ご本人であればいつでも内容を確認できます。ただし、生前に見られるのは本人だけです。

なぜそう言えるのか

「どう書いたか、もう一度確かめたい」と思ったときに確認できなければ、預けること自体が不安になります。そのため、遺言者本人には閲覧の権利が保証されています。

一方で、相続人やご家族は、生前に内容を見ることはできません。ここは制度としてきちんと守られている部分です。安心して預けてください。

具体的にできること

モニターによる閲覧は、全国どこの遺言書保管所でもでき、手数料は1回1,400円です。原本の閲覧は、実際に保管されている法務局でのみ可能で、1回1,700円です。いずれも予約が必要です。

内容を白紙に戻したいときは、前回お伝えしたとおり、保管の申請を撤回して原本を返してもらい、自分で破棄します。廃棄を請求する制度はありません。

引っ越しをしたり、氏名が変わったりしたときは、変更の届出を忘れずに。手数料は無料です。この届出を怠ると、いざというときにご家族への通知が届かなくなります。

今日からできること

保管証をどこにしまったか、今すぐ確認してみてください。閲覧も変更も、この一枚から始まります。

第3回 中身は見せなくていい。存在だけは伝えておく
結論

遺言書の内容を生前に明かす必要はありません。ただし「法務局に遺言書を預けてある」という事実だけは、誰かに伝えておいてください。

なぜそう言えるのか

法務局に預けても、家族が制度の存在を知らなければ、探しにいくという発想が生まれません。そのまま遺産分割協議を終えてしまい、後から遺言書が出てくる。これがいちばん厄介な形です。

制度には二つの通知の仕組みがあります。ひとつは指定者通知で、あらかじめ指定した方(最大3名まで)に、遺言者が亡くなったことが確認された段階で法務局から通知が届きます。もうひとつは関係遺言書保管通知で、相続人の誰かが証明書の交付を受けたり閲覧をしたりすると、他のすべての相続人へ通知が行きます。

指定者通知は、ぜひ申請時に設定しておいてください。ただし通知先の情報が古いままだと届きませんので、住所変更の届出とセットで考える必要があります。

具体的にできること

信頼できる家族に、「法務局に遺言書を預けてある。保管証はこの箱に入っている」とだけ伝えておきます。中身の説明は不要です。

直接話しづらければ、エンディングノートに保管番号と法務局の名前を書き留めておく方法もあります。ただし、そのノート自体を見つけてもらえなければ意味がありません。やはり口頭で一言添えるのが確実です。

今日からできること

保管の申請をするときに、指定者通知の欄を必ず埋めてください。3名まで指定できます。

第4回 遺言書は、一度作って終わりではない
結論

数年に一度、遺言書を見直す習慣をつけてください。作った時点では最適でも、時間が経てば合わなくなります。

なぜそう言えるのか

孫が生まれた。実家を売却した。子どもが独立した。家族の健康状態が変わった。こうした変化のたびに、最適な遺し方は変わります。

とくに不動産は要注意です。「自宅を長男に」と書いた後にその自宅を売却してしまえば、その条項は行き場を失います。逆に、遺言書に書かれていない不動産を新たに取得すれば、その分について遺産分割協議が必要になります。せっかく遺言書を作ったのに、結局協議をすることになる。実際にある話です。

具体的にできること

ライフイベントごとに見直すこと。家族が増えたとき、大きな財産を売り買いしたとき、事業をたたんだとき。

そして、節目を決めて定期的に開くこと。お正月でも誕生日でも構いません。年に一度、下書きを読み返すだけでも十分です。

見直した結果、変更が不要ならそれで構いません。「変える必要がなかった」と確認できること自体に価値があります。

今日からできること

手帳やスマートフォンのカレンダーに、毎年決まった月へ「遺言書の内容チェック」という予定を入れておきましょう。仕組みにしてしまえば、忘れません。

第4集 残された家族のために(全4回)
第1回 検認が要らないという、大きな違い
結論

法務局に預けた遺言書は、亡くなった後の家庭裁判所の検認が不要です。これがご家族にとって、いちばん実感できるメリットになります。

なぜそう言えるのか

自宅で見つかった自筆の遺言書は、そのままでは使えません。家庭裁判所に持ち込んで検認を受ける必要があります。この手続きには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式と、相続人全員の戸籍を集めるところから始まり、申立てから完了まで1か月から2か月程度かかるのが一般的です。

しかも検認前に開封してしまうと、過料の対象になります。悲しみのさなかに、こうした手続きを担うご家族の負担は小さくありません。

法務局に保管された遺言書は、この検認が丸ごと不要になります。相続登記も、預金の解約も、そのぶん早く着手できます。

ただし、繰り返しになりますが、検認が不要であることと、内容が有効であることは別の話です。法務局の確認は外形的なものにとどまります。内容について争われる可能性まで消えるわけではありません。

具体的にできること

保管制度を使うこと自体が、そのままご家族への負担軽減になります。この点は、ご家族に伝えておく価値があります。

今日からできること

ご家族に「法務局に預けておくと、亡くなった後の裁判所の手続きがいらなくなるんだよ」と話してみてください。制度の存在を知ってもらう、いいきっかけになります。

第2回 相続が始まったら、家族は何を取ればいいのか
結論

まず遺言書保管事実証明書で有無を確かめ、保管されていれば遺言書情報証明書を取得する。この二段階です。

なぜそう言えるのか

遺言書があるかどうかわからない段階では、まず「保管されているかどうか」を調べます。これが遺言書保管事実証明書で、手数料は1通800円です。

保管されているとわかったら、次に取るのが遺言書情報証明書です。遺言書の画像が印刷された公的な証明書で、原本の代わりとして相続登記や銀行の手続きに使えます。手数料は1通1,400円。必要な通数を一度に取っておくと、手続きが並行して進められます。

ここで知っておいていただきたいのが、関係遺言書保管通知です。相続人の誰か一人が証明書の交付を受けたり閲覧をしたりすると、法務局から他のすべての相続人へ通知が届きます。つまり、一人だけがこっそり手続きを進めることはできない仕組みになっています。これは公平性を担保する優れた設計です。

具体的にできること

証明書の請求には、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本や、相続人であることを示す戸籍一式が必要になります。まずは戸籍を集めるところから、と覚えておいてください。

請求は全国どこの遺言書保管所でも可能です。ご家族が遠方にお住まいでも問題ありません。

今日からできること

「遺言書情報証明書を法務局で取れば手続きが進められる」。この一行を、保管証と一緒にメモとして残しておきましょう。ご家族が最初に読む説明書になります。

第3回 名義変更を、詰まらせないために
結論

法務局で保管された遺言書があれば、不動産の相続登記も預金の解約も、格段にスムーズに進みます。ただし、書き方が正確であることが前提です。

なぜそう言えるのか

遺言書がない場合、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書を揃えた遺産分割協議書が必要です。相続人が遠方にいる、疎遠になっている、あるいは連絡が取れない。こうなると、手続きは止まります。2024年から相続登記が義務化され、原則として3年以内に登記しなければ過料の対象となるため、この停滞は看過できません。

有効な遺言書があれば、その内容にしたがって手続きを進められます。協議は不要です。

ただし、遺言書の記載が不正確だと、この利点が生きません。不動産の表示が登記簿と食い違っていれば、法務局の登記官は同一の物件と判断できず、結局は相続人全員の関与が必要になることがあります。第1集第2回でお伝えした「登記簿どおりに書く」が、ここで効いてきます。

具体的にできること

遺言執行者を指定しておくこと。これは実務上、非常に大きな差になります。遺言執行者がいれば、その人が単独で預金の解約や名義変更を進められます。指定がないと、金融機関によっては相続人全員の同意を求められることがあります。指定した場合は、保管の申請書にもその方の情報を記載します。

不動産の表示は、必ず登記事項証明書を取り寄せて確認すること。数百円で取得でき、後の手戻りを確実に防げます。

今日からできること

どの銀行に口座があるか、どんな不動産があるかの一覧表を、遺言書とは別に作っておいてください。財産目録と重なりますが、家族が最初に見るのはこの一枚です。

第4回 準備を終えた人の、その後の時間
結論

遺言書を正しく作り、確実に保管する。それは自分の人生を整理し、家族へ安心を手渡す作業です。そして何より、自分自身が軽くなります。

なぜそう言えるのか

ご家族にとって、故人の意思がはっきりしていることは、手続きの負担が減る以上の意味を持ちます。「自分たちのために準備してくれていた」という事実が、そのまま記憶として残ります。

そしてもうひとつ。準備を終えた方は、決まって表情が変わります。ずっと気にかかっていたことが片付いた、という顔をされる。相続の準備は、亡くなった後のためだけの作業ではありません。これからの時間を、心配ごとから解放するための作業でもあります。

具体的にできること

形式の整った遺言書で手続きを助け、付言事項で気持ちを伝える。この両輪が揃って、はじめて完成です。

そして、準備が終わったことを、ご自身できちんと認めてあげてください。ここまで来た方は、それほど多くありません。

今日からできること

すべて終えたら、これからやりたいことを手帳に書き込んでみてください。順番として、それが正しいと思います。

第5集 今日から始めるロードマップ(全4回)
第1回 まずは棚卸しから
結論

遺言書づくりの最初の一歩は、持っている財産と、渡したい相手を紙に書き出すことです。

なぜそう言えるのか

頭の中だけでは、全体像は見えません。書き出してはじめて、偏りや漏れ、そして「これは誰に渡すか決めていなかった」という空白に気づきます。

また、相続人が誰になるのかを正確に把握しておくことも欠かせません。ご自身が思っている相続人と、法律上の相続人が違っているケースは、実際にあります。前の婚姻でのお子さん、代襲相続する甥や姪。ここを取り違えたまま遺言書を作ると、後から想定外の当事者が現れます。

具体的にできること

不動産、預貯金、有価証券、生命保険、貴金属、そして借入金。マイナスの財産も忘れずに書き出してください。

親族関係を図にして、法律上の相続人が誰になるかを整理します。不安があれば、戸籍を取り寄せて確認するのが確実です。

不動産については、登記事項証明書を取り寄せておいてください。所在、地番、家屋番号、床面積。この情報が、そのまま財産目録になります。

今日からできること

ノートを1冊用意して、銀行口座と不動産の名前を箇条書きにするところから。完璧でなくて構いません。書き始めることが目的です。

第2回 いきなり清書しない
結論

最初から本番用紙に書こうとせず、まずはノートで下書きをつくり、じっくり練ってください。

なぜそう言えるのか

いきなり清書に取りかかると、書き損じ、配分の迷い、書き直しの繰り返しで、たいてい途中で嫌になります。保管制度を使う場合は訂正の方法にも決まりがあるため、なおさら下書きが要ります。

下書きの段階なら、何度でも消して、並べ替えて、考え直せます。時間をかけるべきはここです。

具体的にできること

「誰に・何を」の組み合わせをノートで調整し、納得できるまで練ります。数日空けて読み返すと、また違った見え方をします。

形式のチェックも下書き段階で。日付の書き方、氏名、押印の位置、財産の特定。第1集でお伝えした四つの必須要件が満たせているかを確認します。

配分に偏りがある場合や、財産の種類が多い場合、事業をされている場合は、この段階で一度専門家に見てもらってください。清書してからでは、直すのが億劫になります。

今日からできること

下書きができたら、日付、フルネーム、押印、財産の記載。この四点を指差しで確認してみてください。声に出すと、抜けに気づきやすくなります。

第3回 清書と、法務局への申請
結論

下書きが固まったら、様式に沿った用紙で清書し、法務局に予約を入れて申請します。

なぜそう言えるのか

書き上げただけでは、自宅保管と変わりません。紛失や見落としのリスクも、検認の手間も残ったままです。預けて、はじめて制度のメリットが手に入ります。

具体的にできること

清書は、法務省のホームページからダウンロードした用紙のひな形を使ってください。便箋は避けたほうが無難です。A4、片面のみ、余白を上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリ以上、各ページに通し番号、ホチキス留めはしない。筆記具は消えないものを。書き終えたら署名と押印をして、封はしません。

持ち物は五つ。遺言書の原本、事前に記入した保管申請書、本籍と筆頭者の記載がある住民票の写し(3か月以内、マイナンバー記載なし)、顔写真付きの本人確認書類、そして手数料3,900円分。手数料は収入印紙での納付なので、現金を持参して法務局で印紙を買うのが確実です。

予約は、管轄の法務局にインターネットまたは電話で。当日は本人が出向きます。代理は認められません。

今日からできること

清書した遺言書を、封をしないままクリアファイルに入れておきましょう。折らずに持参できる状態にしておくのがコツです。

第4回 伝えて、そして日常に戻る
結論

保管手続きが終わったら、必要なことだけ家族に伝えて、あとはご自身の毎日に戻ってください。

なぜそう言えるのか

備えが完了すると、「もしものときにどうなるのか」という漠然とした重さがなくなります。その分の心の余白は、これからの暮らしのために使うべきものです。

準備は目的ではありません。安心して過ごすための手段です。

具体的にできること

保管証の置き場所を、エンディングノートなどに記録しておきます。あわせて、指定者通知の設定をしたかどうかも確認を。

信頼できるご家族に、「法務局に遺言書を預けてある」とだけ伝えておきます。内容の説明は不要です。

そして、年に一度の見直しを予定に入れたら、そこで一区切りです。

今日からできること

すべて終えたら、これからやりたいことや行きたい場所を、手帳に書き込んでみてください。準備を終えた人にだけ与えられる時間の使い方が、そこから始まります。

補足 制度の限界について、正直にお伝えします

法務局の保管制度は優れた仕組みですが、万能ではありません。

職員が行うのは、全文が自書されているか、日付と氏名があるか、押印があるかといった外形的な確認だけです。法務省も「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しており、遺言の内容について相談に応じることもできないとしています。

つまり、遺留分を侵害する配分でも、誰に何を渡すのか読み取れない曖昧な文言でも、財産の表示が登記簿と食い違っていても、形式さえ整っていれば預かってもらえます。そして、その問題が表に出るのは、ご本人が亡くなった後です。

財産の内訳が複雑な場合、不動産が複数ある場合、事業をされている場合、相続人の間に事情がある場合。こうしたときは、清書に入る前に一度、専門家に内容を見てもらうことを強くおすすめします。3,900円で預けられる手軽さと、内容の妥当性は、別々に考えてください。

執筆者

今村健治
株式会社たまや 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
登録番号:(4)第029768号

渋谷区を拠点に、賃貸管理会社として19年。オーナー様の資産をお預かりする立場から、遺言書に書かれた不動産が実際にどう引き継がれていくのかを、数多く見てきました。

遺言書づくりで私どもがお役に立てるのは、不動産の部分です。登記簿どおりの正確な表示、その不動産を誰が引き継ぐのが現実的か、売却して分けたほうがよいのか、貸したまま残すことに無理はないか。法律の形式は司法書士や弁護士の領域ですが、不動産そのものの見立ては、扱ってきた者にしかできません。

「この物件を子どもに残して、本当に大丈夫だろうか」。そんな段階のご相談で構いません。査定のご依頼でなくても結構です。まずはお気軽にお声がけください。

(本記事は2026年8月時点の法令および法務省の公表資料にもとづく一般的な情報提供です。制度の運用は変更されることがあります。手続きの詳細は法務省ホームページまたは最寄りの法務局でご確認のうえ、個別のご判断は司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください)

「うちの場合はどうなのか」を一緒に整理するところから、お手伝いいたします。

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