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COLUMN

家族で考える「相続と不動産」全20回

(本記事は2026年8月時点の法令にもとづく一般的な情報提供です。個別のご判断は税理士・弁護士等の専門家にご確認ください)

目次
第1集 家族で知っておきたい「相続と財産」の基礎知識(全4回)
第2集 トラブルを防ぐ 法律と税金・手続きの落とし穴(全4回)
第3集 「土地と実家」の相続で損をしないために(全4回)
第4集 後悔しないための遺言書・借金・専門家選び(全4回)
第5集 生前贈与と、住まいを守る仕組み(全4回)
第1集 家族で知っておきたい「相続と財産」の基礎知識(全4回)
第1回 本当のキーパーソンは、お父さんではない
結論

これからの財産や暮らしについて話し合うとき、中心にいるべきなのは世帯主だけではありません。残されるほうの配偶者と、子ども世代を必ず輪の中に入れてください。

なぜそう言えるのか

2024年の日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.13歳。妻のほうが6年ほど長く、そこに夫婦の年齢差を加えると、妻がひとりで暮らす期間は10年前後になる計算です。10年という時間は、生活費も、住まいも、体調も、大きく変わるだけの長さがあります。

そしてもうひとつ。夫が亡くなったときの相続(一次相続)は、配偶者の税額軽減という大きな優遇があり、比較的すんなり収まることが多いのです。問題はその次です。母が亡くなったときの二次相続で、優遇がなくなり、兄弟だけで分け方を決めることになる。私どもがご相談を受けるトラブルは、圧倒的にこちらの局面に集中しています。

具体的にできること

ひとつは、家族全員が同席する場をつくること。世帯主ひとりに判断を任せると、他の家族は「聞いていない」まま当日を迎えます。

もうひとつは、二次相続までセットで考えること。「今回どう分けるか」だけでなく、「その次にどう渡るか」まで一度話しておくだけで、将来の選択肢がまるで変わります。

今日からできること

次に家族が集まる機会を、「一家の主の意見を聞く会」ではなく、「残るほうの安心と、子ども世代の将来を決める家族会議」として設定してみてください。呼び方を変えるだけで、話の中身が変わります。

(ご家庭の形は一つではありません。おひとりの方、お子さんのいらっしゃらないご夫婦にも、それぞれに適した備え方があります)

第2回 「節税」から入ると、たいてい遠回りになる
結論

相続対策の本当のゴールは、税金を安くすることではありません。親御さんが元気に長生きし、家族全員が納得して資産を受け継ぐこと。これに尽きます。

なぜそう言えるのか

節税だけを目的にした対策は、しばしば副作用のほうが大きくなります。相続税を減らすためにアパートを建てたものの、手元の現金が尽きて生活が苦しくなった。分けやすかった預金が、分けにくい不動産に変わって、かえって兄弟が揉めた。こうした話は、決して珍しくありません。

税額は、あとから計算すればわかる数字です。しかし「家族が納得しているかどうか」は、あとから取り返せません。順番を間違えないことです。

具体的にできること

まず、親御さんの健康と、やりたいことを優先してください。元気な期間が長いほど、話し合う時間も、準備する時間も増えます。相続対策における最大の資源は、お金ではなく時間です。

そのうえで、残す資産をどう使ってほしいのかというビジョンを共有する。金額の話より先に、こちらです。

今日からできること

節税テクニックを検索する前に、「受け取ったお金や土地で、家族それぞれがどんな暮らしを送りたいか」をノートに書き出してみてください。対策の設計図は、そこからしか引けません。

第3回 実家をどうするか。数字の前に、歴史を聞く
結論

実家や土地の引き継ぎ方を決めるときは、物件の価値を調べる前に、親御さんがどんな思いでその土地を守ってきたかを理解することが先です。

なぜそう言えるのか

長く住んだ家には、家族の記憶と、地域とのつながりが積み重なっています。そこへ子ども世代が「売ったらいくらか」「税金がいくら浮くか」という話から入ると、親御さんは自分の人生を値踏みされたように感じます。

私どもが立ち会ってきた場面でも、話が立ち消えになる原因のほとんどは、金額の折り合いではありません。順番でした。

具体的にできること

まずは思い出を聞くこと。この家を建てたときのこと、町内でどんな役割を担ってきたか。日常会話のなかで、少しずつで構いません。

そのうえで、親御さんの気持ちに沿った選択肢を探します。地域に役立ててほしいのなら売却や寄付、家族に残したいのなら維持や活用。答えは家ごとに違います。

今日からできること

実家の将来を切り出すときは、「この家で一番印象に残っている思い出って何?」から始めてみてください。査定の話は、その次の日でも遅くありません。

第4回 「稼ぐお金」と「受け継ぐ資産」は、別の仕組みで動いている
結論

これからの時代を安心して暮らすには、働いて稼ぐお金と、親から引き継ぐ資産とでは、まったく違うルールが働いていることを親子ともに知っておく必要があります。

なぜそう言えるのか

税制も社会保障も、毎年のように変わっています。家を継げば安心、年金があれば十分。そうした昔の常識は、もう前提として使えません。

給与所得には源泉徴収があり、会社が計算してくれます。しかし相続した資産には、そういう仕組みがありません。守り方も、次へ渡し方も、持ち主が自分で判断するほかない。この差は思っている以上に大きいものです。

具体的にできること

相続税や贈与税のルールは頻繁に変わりますので、5年前の知識をそのまま使わないこと。実際、後の回で触れる教育資金の贈与制度のように、廃止された優遇措置もあります。

そして、家族で経済の話をする習慣をつけること。ニュースで税制の話題が出たときが、絶好の入り口です。

今日からできること

家族でテレビを見ているときに、「この改正、うちにも関係あるのかな」と一分だけ話題にしてみてください。相続の話は、改まった席より、こういう場面のほうが進みます。

第2集 トラブルを防ぐ 法律と税金・手続きの落とし穴(全4回)
第1回 実家が売れなくなる日 「資産凍結」への備え
結論

親御さんが高齢になったら、相続対策より先に手を打つべきものがあります。判断能力が低下して、口座も不動産も動かせなくなる、いわゆる資産凍結への備えです。

なぜそう言えるのか

認知症の有病率は、年齢とともに確実に上がっていきます。2022年から2023年にかけての調査では、65歳以上全体で12.3パーセント、その前段階とされる軽度認知障害(MCI)が15.5パーセント。合わせて4人に1人以上という水準です。しかもこれは全年齢の平均であって、80代後半、90代と進むにつれて割合は大きく跳ね上がります。

そして怖いのは、医学的な話ではなく手続きの話です。判断能力がないとみなされると、預金の引き出しが止まるだけでなく、実家の売却も、アパートの賃貸借契約も、大規模修繕の発注もできなくなります。管理会社として、この壁に突き当たったオーナー様のご家族を何度も見てきました。空室が埋められない、雨漏りが直せない。それでも法律上、家族には権限がないのです。

具体的にできること

ここが最も誤解されやすい点なのですが、成年後見制度(法定後見)は、判断能力が低下したあとに使う制度です。元気なうちには利用できません。

元気なうちに準備できるのは、家族信託、任意後見契約、財産管理委任契約の三つです。とくに任意後見契約は、公証役場で公正証書として結んでおくもので、「もしものときは誰に任せるか」を本人の意思で決められます。判断能力があるうちにしか結べません。ここを取り違えると、備えたつもりが間に合わなかった、ということになります。

あわせて、どの金融機関にどれだけ資産があるのか、不動産はどこにいくつあるのかを一覧にして共有しておいてください。

今日からできること

親御さんが元気なうちに、「将来、手続きや口座の管理が大変になったら、誰が手伝うのが一番スムーズか」を家族で話しておきましょう。決めるのは後でも構いません。話題にしておくことに意味があります。

第2回 なぜ親の思い通りにならないのか 民法と税法は別物です
結論

相続の手続きを進めるうえで、民法(家族の分け方のルール)と税法(税金の計算ルール)はまったく別の目的でつくられている、と知っておいてください。

なぜそう言えるのか

民法は家族間の公平と円満を、税法は税額の適正な計算を目的にしています。目的が違えば、答えも変わります。

たとえば、住宅資金として長男にまとまった額を生前に渡したとします。贈与税の申告をきちんと済ませていれば、税務上は何の問題もありません。ところが民法上は「特別受益」とみなされ、相続のときに他の兄弟から「あれは先にもらった分だ」と持ち出される可能性がある。税務署が納得していることと、家族が納得することは、まったく別なのです。

具体的にできること

損得だけで分け方を決めないこと。節税になるからという理由で一部の家族に偏った渡し方をすると、税額は下がっても、遺産分割協議が止まります。

決める前に、税金面と感情面の両方でチェックすること。これは他人が入ったほうが見えやすい部分でもあります。

今日からできること

分け方や生前贈与を考えるときは、「このやり方をしたら、他の兄弟はどう感じるだろう」と一度だけ、相手の椅子に座って考えてみてください。

第3回 専門家の提案を、何を基準に判断するか
結論

相続の対策を検討するときの判断基準は、「税金が安くなるか」ではなく「家族の暮らしが安心で豊かになるか」に置いてください。

なぜそう言えるのか

アパートを建てれば節税になります。この特例を使えば税額が下がります。こうした提案そのものは、間違っていません。ただしそれは、提案する側の物差しで測った正解です。

建てた後には、20年、30年にわたる管理と修繕と空室対応が続きます。それを誰が担うのか。その手間まで含めて「得」なのかどうかは、ご家族にしか判断できません。賃貸管理を本業にしている立場から申し上げれば、この部分の想定が甘いまま始まった計画は、たいてい途中で苦しくなります。

具体的にできること

専門家に相談するときは、数字の希望だけでなく、「家族が将来どう暮らしたいか」という前提を先に伝えること。これがないと、相手は税額を下げる提案しか出せません。

そして、ひとりの意見で決めないこと。相続に強い税理士、弁護士、不動産の実務者。立場の違う人間に同じ話をすると、見えていなかった論点が必ず出てきます。

今日からできること

提案を受けたら、こう質問してみてください。「その対策をした場合、10年後の家族の暮らしと手間はどうなりますか」。この問いに具体的に答えられる相手なら、信頼していい相手です。

第4回 残したい相手がいるなら、遺言書しかない
結論

おひとりで暮らしている方、あるいは特定の人やお世話になった団体に財産を遺したい方にとって、遺言書はもっとも確実な手段です。

なぜそう言えるのか

相続人がいないまま亡くなると、財産は家庭裁判所が選んだ相続財産清算人の管理下に入り、債務の清算を経て、最終的に国庫に納められます。その額は2024年度で約1,292億円。10年前のおよそ3倍に膨らんでいます。単身世帯の増加と未婚率の上昇が、そのまま数字に表れた形です。

生前に世話をしてくれた人に財産を分ける「特別縁故者への分与」という制度もありますが、認められる件数は申立て全体から見ればごく一部にとどまります。「あの人に受け取ってほしい」「応援している団体に寄付したい」という思いがあるなら、遺言書という形にしておく以外に、確実な方法はありません。

具体的にできること

遺贈を活用すること。遺言書のなかに、自治体や社会貢献団体へ寄付する旨を明記しておけば、ご自身の資産を次の世代へ役立てることができます。不動産を遺贈する場合は、受け取る側が受け入れ可能かどうかを事前に確認しておく必要があります。ここは不動産の実務が絡む部分です。

もうひとつ、期限の意識も持っておいてください。相続税の申告と納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。この10か月は、想像よりずっと短いものです。

今日からできること

万一のときに自分の資産をどう役立ててほしいか、「応援したい場所」と「感謝を伝えたい相手」の名前を、エンディングノートに書き出してみてください。法的な効力はありませんが、遺言書をつくるときの下書きになります。

第3集 「土地と実家」の相続で損をしないために(全4回)
第1回 平等に分けたつもりが、いちばん揉める
結論

不動産を分けるときは、数字の上での平等ではなく、家族全員が納得できる形を探してください。この二つは、しばしば一致しません。

なぜそう言えるのか

土地や建物には、相続税を計算するための評価額と、実際に売ったときの価格という、二つの顔があります。そしてこの二つは、驚くほど食い違います。

評価額が同じ二つの土地でも、片方は駅から5分の整形地、もう片方は間口の狭い旗竿地ということが普通にあります。書類の上では平等でも、受け取った側の手元に残る金額はまったく違う。「兄の土地は買い手がつくのに、自分の土地は売れない」。この不公平感が、感情的な対立に育っていきます。

具体的にできること

形式的な平等にこだわらず、話し合いで合意をつくること。誰がその不動産を実際に使うのか、住み続けるのかという、暮らしの実態から考えたほうが早く決まります。

差が出るなら、代償金で調整すること。不動産を受け取る人が現金を用意して、他の相続人に差額を支払う方法です。その原資として生命保険を準備しておくのは、よく使われる手です。

今日からできること

分け方を話し合うときは、評価額の話から入らないこと。「誰がその土地を引き継ぐのが一番スムーズか」から始めてみてください。

第2回 路線価が実勢と合わない土地は、どうすればいいのか
結論

相続税の土地評価は路線価が原則ですが、条件の悪い土地では路線価が実勢価格を上回っていることがあります。その場合、評価を見直せる可能性があるため、申告前に相続に強い税理士へ相談する価値があります。

なぜそう言えるのか

路線価は、全国の土地を公平かつ効率的に評価するための共通のものさしです。よくできた仕組みですが、あくまで標準的な土地を想定したものさしなので、標準から外れた土地では実態とずれます。

がけ地、極端な不整形地、間口が狭く再建築が難しい土地、市街化調整区域内の土地。こうした物件では、実際に市場で成立する価格が路線価を下回ることが起こり得ます。何も検証しないまま路線価で申告すると、本来より重い税を負担する結果になりかねません。

ただし、ここは慎重にお伝えしなければならない部分です。路線価と異なる評価で申告するには、不動産鑑定評価などによって、通達どおりの評価が著しく不適当であると立証する必要があります。不動産会社の査定書を添えれば通る、という性質のものではありません。売出価格は成約価格でもありません。適用の可否は、必ず税理士の判断を仰いでください。

具体的にできること

まず、実勢の水準を把握すること。近隣の成約事例をもとに、今売却したらいくらで着地するのかを確認します。ここは私どものような地元の不動産会社がお手伝いできる部分です。

そのうえで、路線価との乖離が大きいようであれば、税理士に相談し、不動産鑑定評価を取得すべき案件かどうかを判断してもらいます。

今日からできること

お持ちの土地に「この評価額は高すぎるのでは」という感覚があるなら、まずは実際の相場を聞いてみてください。判断材料が一つ増えるだけでも、その後の相談の精度が変わります。

第3回 賃貸物件は、法人で持つという選択肢
結論

アパートなどの収益物件をお持ちの場合、個人名義ではなく法人で所有・管理するほうが、資産を守るうえで有効なケースがあります。ただし、要件の確認が不可欠です。

なぜそう言えるのか

理由は二つあります。ひとつは、第2集第1回で触れた資産凍結の問題。個人名義のままだと、オーナー様の判断能力が低下した時点で、賃貸借契約も修繕の発注も止まります。法人所有であれば、法人の代表者が判断できます。

もうひとつは、家賃収入の流れです。個人名義のままだと、家賃はすべて親御さんの財産として積み上がり、相続財産を毎年増やし続けます。法人が建物を持てば、収入は法人に入り、役員報酬という形で子ども世代へ分散させることができます。

具体的にできること

よく使われるのが、土地は個人のまま、建物だけを法人に移す方法です。ただしこの場合、土地について「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出しておかないと、法人に借地権が移転したとみなされて課税される可能性があります。ここを知らずに進めると、節税どころではありません。

また、法人化によって小規模宅地等の特例や貸家建付地評価の扱いが変わることもあります。設立の前に、必ず相続に詳しい税理士と要件を詰めてください。

株主構成も重要です。あらかじめ子ども世代が株を持っていれば、その後に法人の価値が上がっても、その分は子どもの資産として積み上がります。

今日からできること

収益物件をお持ちなら、顧問税理士に「建物だけを法人名義に切り替えた場合、当家ではどうなるか」と投げかけてみてください。試算してもらえば、向き不向きはすぐに見えます。

第4回 身内間の売買こそ、価格の根拠を残す
結論

家族の間で不動産を売買・譲渡するときこそ、第三者から見て妥当と言える価格で行い、その根拠を書面で残しておいてください。

なぜそう言えるのか

身内だからと、相場よりも極端に安い価格で譲ってしまうと、税務署から「安くした差額は実質的な贈与だ」とみなされ、贈与税が課される可能性があります。相続税法にはっきりと定めがあり、税務調査で指摘されやすい典型例でもあります。

「親子だから」「兄弟だから」という理屈は、税務の世界では通用しません。むしろ身内間だからこそ、価格の妥当性を疑われるのだと考えておいたほうがいいでしょう。

具体的にできること

査定書を残すこと。複数の不動産会社から査定を取り、その水準で取引したという記録を残しておけば、後から説明ができます。書類は取引の後にはつくれません。

そして、将来の売却まで見据えて所有形態を選ぶこと。名義を変えること自体にも登録免許税や不動産取得税がかかります。目先の名義変更だけを考えると、二度手間になることがあります。

今日からできること

家族間で名義変更や売買をお考えなら、まず地元の不動産会社2〜3社から客観的な査定書を取り寄せるところから始めてください。それが最初の一歩です。

第4集 後悔しないための遺言書・借金・専門家選び(全4回)
第1回 書き方を間違えた遺言書は、ただの紙になる
結論

自筆で遺言書を書くなら、法律で定められた形式を厳密に守ってください。心を込めたかどうかは、有効性とは関係がありません。

なぜそう言えるのか

日付が抜けている。署名がない。財産の特定が曖昧で、どの不動産を指しているのかわからない。こうした不備があると、遺言書は法律上、効力を持ちません。家族のためにと書いたものが、かえって混乱の種になります。

もうひとつ気をつけたいのが、内容です。「お墓は長男が守ること」といった法的な強制力のない事項ばかりを書き並べると、残された家族は解釈に迷います。書くべきことと、伝えたいことは、分けて考える必要があります。

具体的にできること

確実を期すなら、公正証書遺言をおすすめします。公証人が関与するため、形式の不備で無効になるリスクは大きく下がります。ただし「絶対に無効にならない」わけではありません。作成時に本人の判断能力がなかったと後から争われ、無効とされた例もあります。だからこそ、元気なうちに作ることが大切なのです。

内容はできるだけ単純に。誰にどの財産を渡すかを明確に書き、感謝や思いは付言事項として添える。この形が、いちばん揉めません。

なお、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度もあり、紛失や改ざんのリスクを避けられます。

今日からできること

下書きができた段階で、日付、氏名、押印、財産の特定の四点が正しくできているかを、専門家に一度見てもらってください。書き直しは、生きているうちなら何度でもできます。

第2回 争うくらいなら、生きているうちに徹底的に話す
結論

相続争いを防ぐ最も確実な予防策は、親御さんが元気なうちに、家族全員で本音の話し合いをしておくことです。

なぜそう言えるのか

相続のもめごとは、財産の多寡から生まれるのではありません。「自分はこうしてもらえるはずだ」という各自の思い込みが、亡くなった後になって初めてぶつかることから生まれます。

生前に遠慮して曖昧にしておくと、その差は放置されたまま拡大します。そして調停や審判に持ち込まれれば、決着まで数年。その間に、家族の関係のほうが先に壊れます。財産は分けられても、こじれた関係は分けて修復できません。

具体的にできること

親御さんが元気なうちに、子ども同士で「誰がどの財産を引き継ぎたいか」を正直に出し切ること。全員の希望が通らなくても構いません。希望が可視化されているだけで、後の話し合いの前提がまったく変わります。

あわせて、当面の生活資金の管理方法も決めておくこと。口座が凍結されると、葬儀費用も当座の生活費も引き出せなくなります。仮払い制度はありますが、限度額があります。

今日からできること

次の帰省や法事の席で、「将来の財産のことについて、一度みんなの希望を聞かせてほしい」と声をかけてみてください。切り出す人が誰もいないまま、時間だけが過ぎていく。それが一番避けたい形です。

第3回 誰に頼むかで、結果は変わる
結論

相続の手続きや対策を依頼するなら、相続の実務経験が豊富な専門家を選んでください。同じ資格でも、扱ってきた案件はまったく違います。

なぜそう言えるのか

医師に外科と内科があるように、税理士にも得意分野があります。法人の顧問業務を中心にしてきた税理士と、相続税申告を年に何十件も扱っている税理士とでは、判断の精度が違って当然です。

相続に慣れていない担当者に依頼した結果、使えたはずの特例を見落として過大に納税してしまう。あるいは評価の詰めが甘く、後から税務調査で追徴課税を受ける。どちらも実際に起きていることです。

具体的にできること

申告実績を確認すること。ホームページや面談で、年間どれくらいの相続税申告を扱っているかを聞けば、おおよその見当がつきます。

生前贈与の制度を使うなら、最新の情報で判断すること。ここは特に注意が必要です。長く使われてきた教育資金の一括贈与の非課税制度は、2026年3月31日をもって廃止されました。同年4月以降の新規の拠出はできません。一方、結婚・子育て資金の一括贈与は2027年3月31日まで利用可能です。数年前の記事や書籍をそのまま参考にすると、すでに使えない制度を前提に計画を立ててしまうことになります。

教育資金については、必要なつど渡す「都度贈与」や、相続時精算課税制度の活用が現実的な代替手段になります。

今日からできること

専門家に相談するときは、「こちらの事務所では、年間何件くらいの相続税申告を扱っていますか」と直接聞いてみてください。良い専門家ほど、この質問を嫌がりません。

第4回 引き継ぐのは、プラスの財産だけではない
結論

親御さんが事業をされていたり、ローンや保証債務を抱えている場合は、マイナスの財産の把握を早めに済ませてください。

なぜそう言えるのか

相続では、預貯金や不動産だけでなく、借入金や連帯保証人としての地位も、そのまま引き継がれます。しかも保証債務は、契約書を見なければ存在すら分かりません。

負債を知らないまま相続してしまい、後から多額の返済を求められる。この事態を避けるための手続きが相続放棄ですが、期限があります。自分が相続人になったことを知った時から3か月。この期間に財産の全体像を把握し、判断しなければなりません。放置していると、単純承認したものとみなされます。

具体的にできること

明らかにマイナスが多いなら、家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ること。調査に時間がかかる場合は、期間の伸長を申し立てる方法もあります。

事業の借入がある場合は、生前のうちに金融機関と協議しておくこと。経営者保証に関するガイドラインなど、後継者の負担を軽くする枠組みも整ってきています。

なお、相続放棄をしても、現に占有している不動産については一定の保存義務が残る場合があるという最高裁の判断があります。空き家をお持ちの場合は、放棄すればすべて終わり、とはいかない点にご注意ください。

今日からできること

親御さんが事業やローンを抱えているなら、「今どんな借入や保証関係があるか」の一覧をつくってもらい、契約書を一緒に確認しておきましょう。聞きにくい話ですが、聞かなかった代償のほうがはるかに大きくなります。

第5集 生前贈与と、住まいを守る仕組み(全4回)
第1回 駆け込みの贈与は、もう間に合わない
結論

生前贈与を相続対策に使うなら、相続財産に足し戻される期間が延びたことを踏まえ、10年単位の長い計画で考えてください。

なぜそう言えるのか

従来は、亡くなる前3年以内の贈与が相続財産に加算されていました。これが7年へと延長されています。2024年1月1日以降の贈与から順次適用され、完全に7年分が対象になるのは2031年以降です。なお、延長された4年分については、合計100万円までは加算しないという緩和措置があります。

つまり、親御さんが倒れてから慌てて贈与しても、その大半は相続財産に戻されて課税対象になるということです。贈与による対策は、健康なうちにしか効きません。

具体的にできること

元気なうちから、10年単位で計画を立てること。誰に、いつ、いくら渡すのかを年次で並べてみると、必要な期間が見えてきます。

相続時精算課税制度の検討も忘れずに。2024年から年110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除の範囲内であれば相続財産への加算もありません。使い勝手が大きく変わった制度なので、暦年贈与とどちらが有利かを試算してみる価値があります。

今日からできること

生前贈与をお考えなら、「誰に・いつ・いくら渡すか」のスケジュールを、10年分、紙に書き出してみてください。書いてみると、思っていたより時間が足りないことに気づくはずです。

第2回 配偶者の住まいを守るという発想
結論

長年連れ添った配偶者に自宅を残すなら、配偶者のために用意された制度を活用してください。知らないまま迎えると、選択肢が狭まります。

なぜそう言えるのか

婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、居住用不動産またはその取得資金の贈与について、2,000万円までの配偶者控除が使えます。基礎控除と合わせれば2,110万円です。

さらに、2020年から始まった配偶者居住権という制度があります。自宅の所有権と、住み続ける権利を分けて、住む権利のほうを配偶者に残す仕組みです。これがないと、遺産分割で自宅の所有権を取得するために他の財産を諦めるか、あるいは自宅を売却して分けるか、という苦しい選択を迫られることがあります。実際に、配偶者の住まいが失われるケースは起きています。

具体的にできること

配偶者居住権を検討すること。住む権利を確保しつつ、評価額を抑えられるため、税負担の面でも有利に働くことがあります。ただし登記が必要で、いったん設定すると簡単には解消できません。将来的に施設へ移る可能性なども含めて考える必要があります。

手続き費用も計算に入れること。名義変更には登録免許税がかかります。制度を使うこと自体が目的にならないよう、総額で判断してください。

今日からできること

ご両親の将来の住まいについて、「最後まで安心して今の家に住み続けられる仕組みが取れているか」を、専門家に一度確認してみてください。

第3回 境界と用途を、元気なうちに整理する
結論

将来引き継ぐ土地があるなら、その土地がどう使われているかの区分と、隣地との境界を、今のうちに整理しておいてください。

なぜそう言えるのか

理由は二つあります。ひとつは税金。一つの敷地の中に自宅、貸駐車場、店舗が混在していると、小規模宅地等の特例の適用範囲が複雑になり、受けられるはずの減額を取りこぼすことがあります。

もうひとつは売却です。隣地との境界が確定していない土地は、買い手がつきません。実務では、境界確定ができていないという理由だけで、売買が半年止まることも珍しくないのです。しかも、境界を確認すべき隣地の所有者自身が高齢だったり、すでに代替わりして連絡が取れなくなっていたりする。時間が経つほど、難易度は上がっていきます。

具体的にできること

用途ごとの区分を明確にすること。必要に応じて分筆を検討し、自宅部分と事業・貸出部分の線引きをはっきりさせておきます。

測量と境界確認を済ませておくこと。親御さんが元気で、隣近所との関係が良好なうちに立ち会ってもらい、境界確定図を作成しておく。これは、次の世代への何よりの贈り物になります。

今日からできること

ご実家の土地について、敷地のどこからどこまでが何の目的で使われているかを、簡単な図に描いて整理してみてください。手書きで構いません。

第4回 納税資金は、現金でなければ意味がない
結論

相続税の納税資金と、残された家族の当面の生活費を確保するには、生命保険と死亡退職金の非課税枠を活用するのが最も確実です。

なぜそう言えるのか

相続財産の大半が不動産だと、納税のための現金が足りません。相続税は原則として現金一括納付です。結果として、住み慣れた実家を売らざるを得なくなる。私どもがご相談を受ける売却案件にも、この理由によるものが少なくありません。

生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。死亡退職金にも、同じ計算式の非課税枠が別に用意されています。ここは誤解されやすいのですが、二つを合わせて一つの枠ではなく、それぞれに枠があります。相続人が3人なら、保険で1,500万円、退職金で1,500万円まで非課税ということです。

しかも保険金は、遺産分割協議の成立を待たずに受取人へ支払われます。すぐ動かせる現金であることの価値は、実際にその場面に立つと痛いほどわかります。

具体的にできること

生命保険で現金をつくること。不動産を引き継ぐ相続人が他の相続人へ代償金を払う原資にもなりますし、受取人を指定できるので、渡したい相手に確実に渡せます。

会社を経営されているなら、死亡退職金の規程を整備しておくこと。規程がなければ支給の根拠がありません。元気なうちにしか整えられない書類です。

今日からできること

万一のとき、残された家族が相続税を払い、当面の生活を送るための現金がすぐに用意できるか。金額を書き出して確認してみてください。足りなければ、まだ手を打てます。

執筆者

今村健治
株式会社たまや 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
登録番号:(4)第029768号

渋谷区を拠点に、賃貸管理会社として19年。オーナー様の資産をお預かりする立場から、相続の前と後の両方の現場に立ち会ってきました。相続税の計算は税理士、争いごとの解決は弁護士の領域です。私どもがお役に立てるのは、その手前にある「この不動産をどうするか」という判断のところです。

売る、貸す、住み続ける、次の世代に渡す。どれが正解かは、ご家族の事情によって変わります。査定のご依頼でなくても構いません。「うちの場合はどうなのか」を一緒に整理するところから、お手伝いいたします。まずはお気軽にご相談ください。

(本記事は2026年8月時点の法令にもとづく一般的な情報提供です。税制は毎年改正されます。個別のご判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください)

「うちの場合はどうなのか」を一緒に整理するところから、お手伝いいたします。

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